敷金返還要求が増加中
正しい現状回復精算のための原則と注意点
退去の増えるこの時期は現状回復トラブルがつきもの。加えて昨今は、敷金返還要求や負担分の支払い拒否を当然のように行う賃借人が増えており、Twitter等のSNSでも「敷金を取り戻した」「原状回復費用を請求されたが払わずに済んだ」などの投稿が目立ちます。インターネット上を中心に、原状回復費用は取り戻せる・取り戻すべきという風潮が強まる傾向にあるようです。
確かに今は、ひと昔前のような「どんな修繕費も賃借人負担」といった清算は認められませんが、だからといって「賃貸人が全額負担」という主張も強引です。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、原状回復ガイドライン)」をもとに、改めて基本を確認していきましょう。
通常損耗は賃貸人、通常外の使用による損耗は賃借人負担
現状回復費用の負担割合を考える際、基本となるのが「通常の使用による損耗(以下、通常損耗)」と「賃借人の故意過失や善管注意義務違反、通常の使用を超えるような使用による損耗(以下、故意過失等による損耗)」という2つの損耗区分です。結論から言えば、通常損耗は賃貸人が、故意過失等による損耗は賃借人が、それぞれ費用負担するのが現状回復の大原則となります。
通常損耗とは、時間の経過によって発生する傷みで、例えば、畳や壁紙の日焼け、浴槽や便器の劣化、冷蔵庫の電気焼けや家具の設置跡など、通常の生活をしていれば発生しても致し方ない傷や汚れが該当します。一方、故意過失等による損耗とは、賃借人がわざと・うっかりつけた傷や、結露を放置する等の怠慢で生じた損傷、著しいタバコのヤニ、ペットによる汚れや臭いなど、通常の生活では発生し得ない傷や汚損が該当します。そして、賃借人には、こうした通常使用外の損耗の復旧について「原状回復の義務」が課されます。契約時の同意もなく賃借人に通常損耗分まで負担させるのはご法度ですが、故意過失分については当然に請求ができるのです。
故意過失でも耐用年数は考慮、全額請求は不可
ただし、賃借人の故意過失等による損耗でも、その復旧費用には法律で定められた「耐用年数」が考慮される点には注意が必要です。例えば、壁紙の耐用年数は6年間と定められていますが、これは「壁紙の価値は6年かけて徐々に失われ、6年後には価値を失う」ことを意味しており、3年後の壁紙の価値は本来の価値の50%、6年後の価値は0%(会計上は1円)になると考えなければなりません。そしてこの考え方は、賃借人の故意過失等による損耗の復旧費用にも反映させる必要があります。
たとえ過失で破られた壁紙の修繕費用が6万円でも、賃借人が3年間入居していた場合には、賃借人に請求できる費用は50%の3万円に留まります。同様に、6年以上すんでいた場合には0%となり、請求そのものができないのが原則です(※)。故意過失等による損耗だからと全額の請求を行えば、それは「敷金返還請求」や「支払い拒否」のリスクとなってしますのです。
※賃借人に重大な善管注意義務違反がある場合には、工事の人件費等の一部請求が認められるケースがあります。
賃借人が毀損した内装・設備の耐用年数の考え方
・壁や天井の壁紙(クロス)…6年
・カーペット・クッションフロア…6年
・フローリング…建物の耐用年数に準拠
・畳表、襖紙…考慮不要・1枚単位交換
・エアコン…6年
・便器、洗面化粧台…15年
・ユニットバス・浴槽…建物の耐用年数に準拠
出展:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より
貸主も原状回復ガイドラインで「理論武装」を
近年では「敷金返還代行業者」といったものまで登場し、賃貸経営者には厄介な現状です。しかし、現状回復費用はルールに則って負担割合を定めるものであり、賃借の不当な要求まで飲む必要はどこにもありません。賃貸経営者も原状回復ガイドラインを理解し理論武装をすることはもちろん、事前に管理会社と賃貸借契約書を見直したうえで、必要に応じて特約を設ける等、トラブルを未然に防ぐ方法を考えておきましょう。
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