戦国時代のお城の石垣に学ぶ
擁壁の安全性は「構造」と「排水性能」をチェック☑
今年6月、大阪市西成区で擁壁が崩れ、住宅が土地ごと崩落した事故の映像は衝撃的でした。事故現場となったのは、戦前からあったという古い「空積み」というタイプの擁壁。老朽化など複数の要因が重なり崩落に至ったとされています。
高低差の多い土地柄、日本人は昔から擁壁というものと身近に接してきました。事故のリスクを遠ざけるためにも、その基本構造と歴史を調べてみましょう。
「練積み擁壁」と「空積み擁壁」とは?
現在の擁壁は、裏側や目地にコンクリートなどを流し込んでしっかりと固定する「練積み擁壁」が一般的です。一方、そうした補強材を使わず、ブロックや石材を積んだままの昔ながらの擁壁が「空積み擁壁」です。当然、医師の大きさや角度を絶妙に組み合わせる必要があるため、頑丈な擁壁を造るには熟練の技が求められます。
そしてもうひとつ、空積み擁壁を造るうえで重要な技が「排水」です。擁壁の強度を保つには、擁壁内部に流れ込んだ雨水をうまく輩出する技術が欠かせません。ただでさえ重い崖の上の土砂に大量の水が加われば、どんな強固な擁壁も重みによって破壊されてしまいます。土砂からうまく水だけを排出する技術が安全な擁壁のカギなのです。
現代の擁壁には排水管が埋め込まれており、ここから雨水が流れ出ているのを見たことがある方も多いと思います。では、昔の擁壁はどのように排水していたのでしょう? その技術は、実は身近な歴史的建造物「お城」の石垣に見ることができます。
お城の石垣でも重視されてきた排水機能
一見すると巨大な石まかりに見えるお城の石垣ですが、構造を調べると大小さまざまな石がそれぞれ重要な役割をこなしていることが分かります。
昔はコンクリ―トなどありませんから、構造はもちろん空積み擁壁、その主役となるのが石垣の表面を覆う大きな「積石」です。その積石のすき間を「間詰石」が埋め、石垣の頑丈さを増しています。一方、石垣の裏側には積石の角度を調整する「飼石」が詰められます。この飼石がないと積石同士がうまくかみ合わず、石垣全体の強度が弱まってしまうのです。
そして飼石の裏側にぎっしりと詰まっているのが「裏込石」です。裏込石は適度に小粒な栗石で、下へ下へとスムーズに水を排出していきます。ずばり、この裏込石こそ排水の技術のポイント。水はけの良い裏込石があることで、擁壁内の雨水が適切に外へ排出され、水圧による石垣の崩壊を防いでいるのです。
頑強さを過信せず適切なメンテナンスと調査を
日本には、時代を経てなお見事な排水機能を備えた名城が各地に残っています。戦国時代に建てられた金山城(群馬県)の石畳には、雨水が適切に排水されるよう排水路が敷設されていました。また、江戸時代初期の丸亀城(香川県)の石垣には、現代の擁壁のように13箇所もの排水口が設けられています。時代とともに磨かれてきた石垣・擁壁造りの知恵と技術が、今を生きる私たちの生活と居住区域の拡大とを支えてきたのです。
とはいえ、工夫の凝らされたお城の石垣も、過去には何度も崩落と積み直しを繰り返しています。適切なメンテナンスがなければ、いくら頑強な擁壁でも老朽化による崩落事故を避けられないのです。倒壊した大阪の空積み擁壁は、経年劣化によって元々あった裏込めの石や土が流れ出てしまい、十分な排水機能を失っていたという見方もあります。気になる擁壁があれば、念のため自治体に相談するなどして早めに調査をしてみることをお勧めします。
擁壁の危険信号
■擁壁の表面から水が染み出ている・湿っている
■ふくらみや傾きなどの変形・ひび割れがある
■水抜き穴に土や草が詰まっている
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