日本の家づくりに暗雲「ウッドショック」の危機
コロナ禍が引き金となり、長期化が懸念される
今朝、ネットサーフィンをしていると、 気になるこんな記事を見つけました。
(以下抜粋)
「最近、街中を歩いていると基礎工事だけを終えた住宅の施工現場を目にする機会がないだろうか。
筆者宅のすぐ近くにもあり、そこではかれこれひと月近くにわたって工事がストップしている。なんだかもの悲しげな雰囲気が醸し出されているのだが、これはいわゆる「ウッドショック」と呼ばれる事態の象徴的な光景と言える。
ウッドショックとは、木材の調達が困難になり価格が高騰、その結果、住宅事業者の経営が難しくなることをいう。住宅産業は関連産業や就業者の多さなどといった点で裾野が広いことから、事業者の業績悪化、ひいては日本経済にもダメージを与えることになる。
新型コロナウイルスの感染拡大など事業環境がめまぐるしく変わる中で、住宅事業者はウッドショックという新たなリスクが発生したことに危機感を強め、その推移に強い関心を示している。木材は構造材としてはもちろん、内装材や建具などとしても数多く活用され、住まいや暮らしの満足度を大きく左右する素材でもある。
また、希望する時期に入居ができないなどといった事態も起こりうる。そのため、この問題は消費者、特に「これから住宅取得を」と考える人たちにとっても無縁ではない。
そこで、木材調達が現状でどのようになっているのかについて、まず確認しておきたい。筆者は、とある木材供給会社が住宅事業者に宛てた文書を入手したが、その内容には悲壮感すら漂っている。
グローバル需要の増大とコンテナ不足
そこには「木材調達はかつてない価格高騰と入手困難に直面しており、発注済み案件も供給が間に合わない可能性が出てきた。今後の納期について不透明な緊急な段階となっている」(要約)と書かれている。
では、なぜこのような状況になっているのだろうか。要因は大きくコロナ禍が引き金となった「グローバルな木材需要の拡大」、「コンテナ不足」に集約される。
世界規模での木材需要の拡大には、アメリカの住宅需要が強く影響している。現地ではコロナ禍でテレワークが拡大したため、郊外エリアでのニーズが増加。歴史的な低水準の住宅ローン金利を背景に住宅市場が活況なのだ。この結果、アメリカの2021年の新設住宅着工はコロナ禍前数年の120万戸台を大きく上回る150万~170万戸レベルにまで増加するとみられている。加えて、DIY需要の増加も木材不足につながっているようだ。
日本でも住宅市場はコロナ禍にあっても比較的堅調だが、アメリカの住宅産業は経済の柱としてより重要視されているため、住宅需要がより高まる傾向にある。
このほかにもコロナ禍の影響からいち早く立ち直りつつある中国で木材需要が増加していることも指摘されている。
もう1つの要因であるコンテナ不足は、コロナ禍によりeコマース(インターネット通販)向け商品などの需要が増加したことで、世界的に物流量が拡大したことが背景にある。
下記【図1】は、国土交通省が4月23日に実施したコンテナ不足問題に関する情報共有会合の資料だ。
日本を含むアジアからアメリカへのコンテナ荷動き量が増え、運賃が上昇していることがわかる。さらに、中国におけるコンテナ製造の停滞、北米西海岸の港湾混雑(荷積み・荷揚げが停滞)も要因となり、木材輸入の困難さに輪をかけているわけだ。
では、木材の輸入と価格はどうなっているのだろうか。中でも調達が難しくなっているのが、主に北米や欧州などから輸入する「製材」と「集成材」である。
製材とは伐採した木を角材や板材に加工したもの。集成材はある一定の大きさの木材を集めて接着、加工したものだ。
【図2】は、林野庁木材貿易対策室による「木材輸入の状況について」から引用した、「製材」についての昨年の輸入量を表したものだ。6月以外、前年同月を下回る状況が続いている様子が見て取れる。
図にはないが、今年1月が前年同月比マイナス29%、2月が同4%、3月が同7%となっている。このほか、「集成材」も同様で、昨年10月以降減少が続き、今年も1月が同29%、2月が同21%、同11%となっている。
アメリカで製材などが史上最高値を更新
この結果、「アメリカの製材、構造用パネルは史上最高値を推移中」(日本木材総合情報センター)で、ランダムレングス紙発表の15種平均価格については昨年4月の$358/Mが、今年4月には$1026/Mと約3倍となっている。
これに伴い、国産材も値上がりしている。【図3】は農林水産省大臣官房統計部が5月6日に発表した木材流通統計調査によるものだが、例えば「すぎ中丸太」は昨年7月以降、価格が上昇し続けている。
以上のことからも、今後の推移がどうなるかが焦点となるわけだが、前述したように先行きについては、悲観的になっている業界関係者もいる。そこで、今後について木材を取り扱う代表的な2社による見解を求めてみた。まずは住友林業で、文書による回答を得た。
同社は、大手ハウスメーカーとして知名度が高いが、世界20数カ国に展開し、調達から製造、流通までを担う国内トップの業績を誇る木材・建材商社という側面も持つため、木材の動向に詳しい。
回答によると、「コンテナの問題が解消すると予想していた夏ごろには輸入木材の需給も緩和すると考えていたが、コロナ禍でも好調を続けてきたアメリカの住宅建設がそのまま維持されている。資材高、供給不足は夏場を超え、年内いっぱい続く可能性が高い」とみているという。
国産材については、「山林所有者は高齢者が多いなどの理由から、現状では伐採意欲に繋がっていかない」といい、短期的に木材調達の安定や価格低下につながる可能性は低いとの見方だ。
もう1社は、日本最大のプレカット材の加工・販売企業であるポラテックだ。
プレカットとは、住宅建築に使われる木材を設計図面に合わせて工場で加工することをいう。プレカット材は施工品質の向上や工期短縮が可能なことから、現在木造住宅の多くで使われている。
比較的短期間で収束する可能性も
ポラテックは国内外から木材調達をしているが、前述のような状況から調達に苦戦。プレカット材の受注も一部で制限せざるをえない状況となっている。
だが、同社専務の北大路康信氏によると、今後については意外にも「それほど心配していない」という。その理由はこれまでのウッドショックと呼ばれる事態は、数カ月単位の比較的短期間で収束しており、今回もその轍を踏む可能性があるからだという。
「世界の需要に対する木材出荷量が不足しているわけではなく、現状はより高値で購買するアメリカや中国にモノが流れ、日本が買い負けている状況だ。コンテナ問題などが収束すれば、元通りの木材調達・価格に戻ると考えられる」と北大路氏は語った。
つまり、少なくともウッドショックが非常に長期間にわたる、あるいは常態化するようなことはない、との見方だ。
とはいえ、消費者が住宅取得をする際の建築費についてはどうなるのだろうか。冒頭のように、施工現場がストップするような状況が表れる中で、値上げに踏み切るケースも出始めている。
前出の住友林業は「住友林業の家」ブランドで住宅事業を展開しているが、「主要な木材製品の調達については当面は目途がついており、今後の交渉についても信頼関係のある国内外の仕入先からの供給を受ける予定」という。
ただし「当社住宅事業について現時点では住宅着工や竣工への影響はないが、建築費は時期を含めて見直しを検討している」との回答もあった。
また、ある大手ハウスメーカーに問い合わせたところ、「現在は在庫でカバーできているが、8月以降については木材の確保が厳しくなることを予想している」としている。つまりは、大手ですら危機感を強めているというわけだ。
健全な林業経営実現がカギに
日本は森林資源に恵まれた国でもある。それなのになぜウッドショックに見舞われているのか、疑問に思われないだろうか。その理由は、建築向け木材の約5割を輸入に頼る日本の住宅産業の構造、サプライチェーンのあり方がある。
さらには国産材を供給する林業の脆弱性がある。日本の林業は、事業者の高齢化や人手不足、機械化の遅れなどから、結果的に価格や品質のバランスで輸入材に押されているわけだが、この林業をめぐる課題解決の必要性を今回のウッドショックは浮き彫りにしているように思われる。
一方で、木材は再生可能な「資源」であり、その価値が高まると考えられ、世界的に木材の使用量は年々増加している。仮に現状が改善されるとしても、将来的にウッドショックの再発、あるいはさらに厳しい局面になる可能性も否定できない。
今回のウッドショックが住宅産業と林業のより健全な関係づくりやそれぞれの体質強化につながる契機になればと考える。」
新型コロナウイルスの感染拡大が、こんなところにまで影響していることに驚きますね。今後、木材の入手は困難になるのでしょうか。コロナが早く終息し、現状が改善されることを願うばかりです。

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